「やっぱダメだぁ。碧人には勝てないや」
「夏瑚……」
「やめやめ。終わりにしよう」
「夏瑚!」

 横を向くと、碧人がじっとわたしを見ていた。

「夏瑚、おれ、さっき言ったよな? 好きなひといるって……」

 胸の奥がずきんっと痛む。鼓動が急に速くなる。
 なんだかその続きは聞いてはいけないような気がして、わたしは咄嗟に立ち上がった。

「ごめん、碧人。トイレ借りるね」
「あ、おいっ、夏瑚!」

 逃げるようにリビングを出たら、ちょうど帰ってきたおじさんとばったり会った。

「夏瑚ちゃん!」
「おじさん」

 おじさんは目を細めて頬をゆるめる。

「夏瑚ちゃん……会いたかったよ」

 わたしはおじさんの前で笑顔をみせた。