「ほんとうはおまえ、先生とまわりたかったんだよな」
「え?」

 碧人が視線をおろし、わたしを見た。

「マキ先生とペアになりたかったんだろ? おれじゃなくて」

 碧人の声が、静かな空気に浮かぶ。
 あたりはやっぱりひと気がなく、街の灯りやざわめきが、少し恋しい。

「そ、そりゃあ、マキ先生、カッコいいし、優しいしさ。なにがあっても守ってくれそうだし」
「好きだった?」

 突然碧人が聞いてきた。

「え?」
「好きだった? マキ先生のこと」

 碧人が足を止めて、わたしを見つめる。つながった手がじんわりと熱くなる。

 笑顔がステキだった、マキ先生。
 カッコいいだけじゃなく、足も速くて、アドバイスも的確で、メンタル面でもいっぱいフォローしてもらった。
 先生というより、お兄さんって感じで話しやすかったから、ふざけた話もたくさんして、たくさん笑った。

「す、好きとか、そんなんじゃないよ。憧れのひとだったけど」

 マキ先生に憧れていた女子生徒は、わたし以外にも大勢いた。響ちゃんだってマキ先生のこと、カッコいいっていつも言ってたし。

「じゃあもし、あの事故がなかったら……憧れから好きに変わってた?」

 碧人がじっとわたしを見ている。

 なんでそんなこと聞くんだろう。「もし……」なんて、考えても仕方ないのに。
 だけどわたしの答えは決まっている。