「やっぱり、タクシー乗ろうか?」
「えっ、ダメだよ。もったいない。お金だって、そんなに持ってないし。わたし歩けるよ」

 碧人が立ち止まってわたしを見る。心配そうな顔つきで。これ以上碧人に、心配はかけられない。無理やり誘ったのは、わたしだし。

 わたしは碧人に向かって、にこっと微笑んだ。しかし碧人は、顔をしかめて言った。

「無理して笑うのやめろ」
「え……」
「もうそういうのやめろ」

 その声を聞き、ふと鴨ちゃん先生に言われた言葉を思い出す。

『笑ってるのに、いつも泣いてるみたいに見える』

 わたし、碧人からも、そんなふうに見えているのかな……

「わたし……ダメなんだよね……」

 碧人がわたしの顔を見る。

「いなくなったみんなの分まで、しっかり生きなくちゃって思うのに、ぜんぜんできなくて……だから今日、途切れてしまったままのあの日の続きをして、あの夏を終わらせたかった。そしたらわたしは、少し変われるんじゃないかって思って……」

 わたしはまた少し笑う。

「でもやっぱり、ダメだった」

 うつむいて、足元を見つめる。

『がんばって、生きてね、夏瑚ちゃん。美冬の分も』

 泣きながらわたしの手を握った、美冬のお母さんの切ない顔。

 だけどわたしは、ずっとがんばっていなかった。
 つらい現実を受け入れたくなくて、逃げて逃げて、気づかないふりをしていた。