「これ、使えよ」

 涙腺ぶっ壊れたんじゃないかと思うほど泣きじゃくったあと、碧人がハンドタオルを差しだしてくれた。たぶんわたしの顔が、涙や鼻水でぐしゃぐしゃだったからだろう。

 でもこれ借りたら、わたしの鼻水で汚れちゃう。
 わたしが躊躇していたら、碧人が言った。

「汚くねーぞ。今日使ってないから。ちゃんと洗濯してあるし」

 碧人が必死にそんなこと言うから、わたしはふふっと笑って、タオルを受け取った。

「ありがと。碧人」

 タオルに顔をうずめる。碧人の家の柔軟剤の香りがする。
 ごしごし顔を拭き、視線を上げた。メイクも落ちちゃって、たぶんひどい顔だろうけど、しょうがない。

 気づくとあたりは、薄暗くなっていた。
 どんだけ泣いたんだ、わたし。恥ずかしい。
 でもあの夏からいままで、わたしは一度も泣いていなかった気がする。

「帰るか」

 碧人がベンチから立ち上がる。

「バスは無理だろ? 歩いて帰ろう」
「うん……」

 わたしもうなずいて立ち上がった。

 あたりは静まり返っていた。ときどきヘッドライトを照らした車が、何台か通り過ぎる。
 ここどこなんだろう。西高校からどのくらい離れているんだろう。

 静かな夜道をふたりで歩いた。今日はずいぶん歩いたから、足が痛む。
 いつもよりもっとカッコ悪く歩いていたら、碧人がちらっとわたしの足を見て言った。