「ごめん……ごめんね……美冬……ごめんなさい。わたしだけ逃げて……助けてあげられなくて……」
「夏瑚……」

 碧人がつぶやく。

「夏瑚のせいじゃない。おれだって逃げた。みんなを残して……」

 わたしはスマホを握りしめたまま、膝に顔を押しつける。

「あのときはしょうがなかった。おれや夏瑚に、できることなんかなんにもなかった。だから夏瑚は……なにも悪くないんだよ」

 碧人の声は、自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。

 バスが一台わたしたちの前に停車した。なかからおばあさんがひとり降りてきて、ちらっとこっちを見て去っていく。
 バスの運転手さんは、わたしたちが立ち上がらないのを確認すると、ドアを閉めて発車した。

 その音が遠ざかると、あたりはまた静かになった。
 ずっと握りしめていたスマホの上に、ぽたりと水滴が落ちる。