【今日暑くない? まだ五月なのにさー】

 素早く指を動かし、メッセージを送信。

 渡り廊下を風が通り抜ける。わたしの肩にかかる髪とチェックのスカートが、さらっと揺れる。

【みんなはこの暑いなか、外を走っているのかな?】

 ポケットからもう一個キャンディーを取りだし、口に放り込む。甘いミルクの味が、口のなかにふわんと広がる。

【わたしはこれから帰るよー。うちに帰ったら昨日買ったソーダアイス食べるんだ。いっせーの好きなやつだよ。うらやましいだろー?】

 猫の『いししっ』って歯を見せて笑っているスタンプ。

【ちなみにいまは、みふゆオススメのミルクキャンディー舐めてまーす。やっぱこれ、おいしいね】

 『うまい!』のスタンプをタップ。
 わたしはじっと画面を見下ろしてから、続きを打つ。

【じゃ、みんな、今日もがんばってねー】

 『バイバイ』って手を振るスタンプを送って、わたしはスマホの電源を切った。

 また風が吹く。目を細め、もう一度グラウンドを眺める。
 陸上部の知らない男子が、100メートルを駆け抜けるのが見えた。

 胸の奥からなにかがこみ上げてきそうになって、わたしは顔をそむける。

「帰ろっ」

 短いスカートをひるがえし、荷物を取りに教室へ向かう。

 早く家に帰って、アイスを食べよう。
 こんな暑い日は、あの水色のソーダアイスがサイコーなんだ。

 アイスバーをシャクっとかじると、さわやかな甘酸っぱさが口のなかに広がって、体がひんやりと冷えていく。
 その感じを思い出し、笑いをこらえながら足を速めた。

 ほんとうはこの廊下を駆け抜けて、階段を一気に駆け上がりたい気分だったけど。
 わたしの足は、もうわたしの言うことを、あんまりきいてくれない。