それからわたしたちは順番に、気が済むまでボールを投げて、気がつけばあたりは薄暗くなっていた。

「……送るよ」

 碧人が言うから、わたしは素直にうなずいた。

 ひと気のなくなった中学校の横を通り、住宅街を歩き、バス通りに出る。マンションの近くまで来たら、お母さんがわたしの名前を呼んで、駆け寄ってきた。

「夏瑚! 今日は遅いから心配しちゃったわよ」

 お母さんはわたしの前に立ち、碧人の顔を見る。そしてすごく驚いた表情をする。

「まぁ、碧人くん?」
「……はい」

 碧人の声を聞いたお母さんの顔が、今度は泣きだしそうな笑顔になる。

「久しぶりね。会えてよかった。元気にやってる?」
「はい」

 碧人はお母さんの顔を見ないように、うつむいた。

 たぶん、気まずいと思っているんだろう。碧人たちは我が家に行先も告げず、急に引っ越してしまったから。

 だけどお母さんはかまわず、制服の上から碧人の肩をなでる。

「よかった。本当に……元気そうで」

 お母さんにとって碧人は、自分の子どもみたいなものだった。だけど突然いなくなってしまい、すごく心配していたんだ。