青い風、きみと最後の夏

「碧人……」

 碧人が顔を上げた。そしてわたしにゆるいパスを放つ。わたしは胸で、ボールを受け取った。

「なにやってんだろ……おれ」

 わたしは碧人の顔を見る。

「こんなことしても、意味ないのに」

 碧人はくしゃっと、自分の髪をにぎる。

「もうあいつらとは、勝負できない。おれは一生、あいつらには勝てない」

 わたしはぎゅっと唇をかみしめた。そして碧人の立っている場所まで歩き、リングをにらむ。

「わたしもやる」
「え?」
「見てて。一発で決めるから」

 碧人が呆然とした表情で、わたしを見ている。

 みんなも見てて。わたし決めるから。ぜったい決めてみせるから。

 100メートルのスタートラインに立ったときのことを思い出す。
 目指すは100メートル先のゴール。

 わたしは深く深呼吸をした。
 集中しろ、わたし。集中だ。

 すうっと手を伸ばす。ボールが指から離れる。リングに向かって飛んでいくボールを、目で追いかける。

「入れっ!」

 大きく弧を描いたボールは、ダンッとボードに跳ね返り、地面に落ちた。

「あーあ……」

 わたしはため息をもらし、碧人に笑いかける。

「失敗しちゃった」

 すると碧人も小さく笑った。そしてすぐにボールを追いかけ拾い上げると、わたしにパスした。

「もう一回やってみろよ。何回目で入るか数えてやるから。100回でも200回でも」
「はぁ? そんなにかかるはずないじゃん!」

 わたしの声に、碧人がまた頬をゆるめる。わたしも碧人に笑いかけると、もう一度ゴールを見つめた。

 よし。こうなったらぜったい入れてやる。
 みんなも見ててね。次はぜったい決めるから。

 わたしは心のなかで「入れ!」って叫びながら、ボールを放った。