『レース前と同じだよ。リングだけ見て集中しろよ』

 碧人がボールを弾ませる。

『あとは心のなかで「入れ!」って叫ぶんだな』
『そんなんで入れば、おれだって……』

 碧人がリングをにらみ、シュートを放つ。だけどボールはリングに当たり、そのまま外にはじかれた。

『もっと集中しろ』

 瑛介くんに言われている碧人を見て、一成がにやにや笑う。

『碧人は一生、おれたちに勝てねぇな』
『うるせー、いっせー! いまに見てろよ! ぜったいおまえらに勝ってやるからな!』

 あのころの碧人の学校でのイメージは、明るくていつも笑っている子。クラスの女の子たちに「碧人くんってカワイイ」なんて言われていた。
 でも実はすっごく負けず嫌いなやつだって、わたしは知っている。

 そしてその日から、わたしは碧人につきあわされた。
 みんなが帰ったあと、碧人が何回シュートを決められるか、数えてくれって言うんだ。

「なんでわたしがあんたに、つきあわなきゃなんないの? お腹すいたんですけど」
『うるせぇ! いいからちゃんと数えてろ!』
「そんなの自分でできるでしょ?」
『いいから!』

 碧人はほんとうにガキだった。
 わたしは毎日碧人につきあい、帰りが遅くなり、お母さんに怒られた。