青い風、きみと最後の夏

 靴を履き替え、校門から外へ出る。いつもの歩道に、碧人はいた。

「碧人!」

 わたしが呼んだら、ガードレールに腰掛けていた碧人がスマホから顔を上げた。

「今日はいい天気だよ」
「見ればわかる」

 ぐるっと空を見まわす碧人。わたしはむすっと口をとがらせる。

「部活、あるんじゃないの?」

 碧人がゆっくりと視線を下ろし、茶色い髪をかいた。

「うるせぇなぁ……」
「は? あんたやっぱりサボってるんでしょ!」

 わたしの声が大きかったみたいで、下校中の生徒に不審な目で見られてしまった。
 だけどかまわず、言ってやる。今日ははっきり言うって決めてきたんだ。

「もうわたしのところなんか来なくていいから! 早く戻りなよ、学校に!」

 碧人はふてくされた顔をしている。

「ほらっ、戻りなって!」

 制服を着た、碧人の体を押す。わたしの家とは反対方向に。
 だけどその手を、碧人がぎゅっとつかんだ。

「帰るぞ」

 碧人がわたしの家のほうに向かって歩きだす。わたしは足をふんばった。

「ヤダ! 碧人は学校に戻らなきゃダメだよ! こんなところにいたらダメなの!」

 足を止めた碧人がわたしを見る。わたしは碧人の顔をにらみつける。

『今日の帰りに、言おうと思ってるの』

 ああ、まただ。また美冬の声が聞こえてくる。

『碧人くんに……好きだって』

 わたしはぎゅっと目を閉じる。

「じゃあ……」

 頭の上のほうから、碧人の声がした。

「遊びに行こう」

 わたしは目を開き、思いっきり顔をしかめる。

「はぁ?」
「遊びに行こうぜ」

 意味がわからない。

 わたしはなにも言えずに、碧人を見上げる。
 碧人は強引にわたしの手を引っ張って、やっぱりわたしの家の方向へ歩きだした。