コンビニの脇にある駐輪場の隅っこで、碧人と並んでブロックに腰掛ける。よく塾の帰りに、碧人とこうやって寄り道した。

 碧人がソーダのアイスバーを袋から出し、シャクっとかじる。わたしもそのとなりで、同じようにアイスを食べる。
 アイスは碧人が選んで、おごってくれた。

 雨上がりの空は美しいオレンジ色に染まっていて、「好き」って言った、響ちゃんや鴨ちゃん先生の気持ちがわかる気がした。

「久しぶりに食った。これ」

 わたしのとなりで碧人がつぶやく。

「え、そうなの?」
「うん。おまえはしょっちゅう食ってたみたいだけど」

 わたしはアイスを舐めて、へらっと笑う。

「うん。そうだよ。だってこれ、おいしいじゃん。最初にいっせーが買ってきてさ、『ぜったいうまいから食ってみろ』って言って。そのうちみんな、はまっちゃったんだよね」

 一成の「ほらみろ」って自慢気な顔を思い出す。

「真夏の練習のあとのこれは、サイコーだった……」

 そこまで言って、わたしは黙った。となりに座る、碧人の横顔が見えちゃったから。
 碧人はアイスを食べながら、涙を流していた。

「……碧人」

 わたしがつぶやくと、碧人はあわてて目元をこすった。
 わたしはそれ以上なにも言わずに前を向く。

 ちょっと蒸し暑い風が吹いた。中学のころよりずいぶん伸びたわたしの髪が、さらっと揺れる。

 ずっとこのアイスを食べ続けていたわたし。
 ずっとこのアイスを食べられなかった碧人。
 だけどわたしたちが思い出す景色は、きっと同じだ。

 ソーダ味のアイスをシャクっとかじる。一成の底抜けに明るかった笑顔が浮かぶ。

「碧人……」

 にこっと笑って、碧人を見る。

「おいしいね?」

 碧人は洟をすすって、小さくうなずいた。