「……晴れた」

 保健室の窓から空を見上げる。三日間降りつづいていた雨が、放課後にはやみ、空が明るくなってきた。

「よかったねぇ、雨のなか歩くの嫌なんでしょ?」

 わたしの横に並んだ鴨ちゃん先生が、同じように空を見上げて言う。
 でもグラウンドはぐちゃぐちゃだ。これじゃきっと部活はできない。

「……だなぁ」
「へ?」

 わたしは鴨ちゃん先生の顔を見た。先生はパーマヘアを揺らして、子どもみたいにちょっと口をとがらせる。

「もう、水原さんってば。わたしの話、聞いてなかったでしょ?」
「ごめーん。もう一度言って」

 甘えるように肩を押しつけすりすりすると、「まぁ、たいしたことじゃないけど」って笑ってから、先生が口を開いた。

「わたし、雨上がりの空って好きだなぁって言ったの」
「ああ……」
「薄暗い世界が少しずつ晴れ渡っていくのを見てると、元気がわくよね」

 わたしはうなずき、もう一度空を見上げる。

『わたし、雨は嫌いだけど、雨上がりの空はけっこう好き』

 そういえば、響ちゃんもそんなこと言ってたっけ。
 響ちゃんは、空の微妙な変化を感じとっては、しみじみと口にしていた。わたしは響ちゃんの豊かな感性に、憧れを抱いていたんだ。

「鴨ちゃん先生、わたしの友だちとおんなじこと言ってる」

 にかっと笑うわたしの前で、先生も目を細めた。

 雲がゆっくりと動き、わたしと鴨ちゃん先生の立つ窓辺に、金色の日差しが差し込んできた。