「……なにしてるの?」

 碧人はわたしを見て、ぼそっとつぶやく。

「夏瑚を待ってた」

 わたしは顔をしかめた。

「なんで? ほっといてって言ったのに」
「何度だって来るって言っただろ」

 違う学校の制服を着ている碧人のことを、校門から出てきた女子生徒たちが、ちらちら見ながら通り過ぎる。

「帰るぞ」

 碧人がくるっと傘を回し、わたしの家のほうへ歩きだす。わたしは仕方なく、ローファーを履いた足を動かす。
 碧人はちらっとわたしの足を見て、歩くペースを少し落とした。

 ダサい花柄の傘に雨が落ちる。ぽつぽつ、ぽつぽつ……わたしは傘のなかでその音を聞きながら、碧人の背中につぶやく。

「西高……行ってるの?」
「ああ」

 碧人は峯崎西高校の制服を着ていた。同じ市内の高校だけど、ここからはちょっと距離がある。

「どうやって来たの?」
「走ってきた」

 碧人が背中を向けたまま答える。

 は? 雨なのに? でも碧人のズボンの裾は、かなり濡れている。
 水たまりを蹴散らしながら走る、碧人の姿を想像した。

「家もそっちのほうなの?」

 わたしは碧人の引っ越し先を知らない。

「そうだよ」
「ここから……遠いじゃん」

 碧人が黙った。わたしの足が、ぱしゃっと水たまりを踏みつける。

「部活は? やってるの?」

 その言葉を伝えながら、胸がちょっと苦しくなった。

「やってるよ。陸上部」
「そうなんだ」

 碧人は陸上を続けていた。
 なんだかすごくホッとして、そのあと急に腹が立ってきた。