教室にリュックを取りに行き、ひとりで廊下を歩いた。
 今日も放課後の校舎はいろんな音が混ざり合っている。

 吹奏楽部のちょっと調子のはずれた音色を聞きながら、わたしはスマホを開く。
 いつものグループ名をタップしたら、昨日聞いた声を思い出した。

『返事のこない相手にずっと話しかけたりして……もうこんなの見てられないんだよ』

 わたしはぎゅっと唇を噛む。自分でもよくわからないもやもやした感情が、胸の奥からあふれそうになる。
 結局わたしはなにも打てないまま、スマホをポケットに突っ込んだ。

「もう……」

 昇降口で靴を履き替え、外へ出る。
 いつのまにか雨が降っていた。わたしはリュックのなかから折り畳みの傘を出す。

 この前制服を濡らして帰ったから、お母さんに毎日傘を持ち歩くよう言われちゃったんだ。
 折りたたみ傘はお母さんので、ちょっとダサい花柄だった。

 わたしはその傘をさし、ゆっくりと歩く。そして校門まで来て、足を止めた。

「碧人?」

 校門の外で、透明な傘をさして立っているのは碧人だった。