「水原さんさぁ、生理痛あんまりひどかったら病院行ったほうがいいよ」

 机に向かって書類を書きながら、鴨ちゃん先生が言う。

「んー、そうだね」

 わたしはポケットからキャンディーを取りだし、包みを開けて口のなかに放り込む。あまーいミルク味のキャンディーだ。

 顔を上げると、保健室の開いた窓から青い空が見えた。わたしには眩しすぎる青。
 ちょっと生ぬるい風が吹き込んで、クリーム色のカーテンと先生のやわらかそうなパーマヘアがふわっと揺れた。

「せんせ、食べる?」

 ミルク味のキャンディーを差しだすと、鴨ちゃん先生は子どもっぽい笑みを浮かべて「ありがと」って受け取った。

「そろそろ帰るね」
「はいはい。お大事に」

 先生がペンを持っていない左手を、ひらひらと振る。
 わたしは机の脇のゴミ箱にキャンディーの包みを捨て、上履きを引きずりながら進む。そして引き戸に手をかけたところで、くるっと振り向いた。

「ねぇ、明日もまた来ていい?」

 書類に向けようとしていた顔を上げ、鴨ちゃん先生がわたしを見る。

「理由は?」
「んー……明日は頭が痛くなる予定」

 先生がくすっと笑う。

「痛くなったらおいで」
「たぶんすぐ来る」

 わたしもにかっと笑って、先生に手を振った。

「じゃ、また明日ねー」
「はいはい。気をつけて帰りなよ」

 廊下に出た途端、放課後のざわめきが襲いかかってくる。
 わたしは口のなかのキャンディーをがりっとかみ砕いてから、少し曲がってしまった足を、ぎこちなく動かしはじめた。