マンションのおとなりに住んでいた、同い年の幼なじみ、上條(かみじょう)碧人。
 小さいころの碧人は泣き虫で寂しがり屋で、いつもわたしのあとを追いかけてきた。

 そんな碧人が、小学生になってはじめての運動会で、かけっこの一等賞をとった。
 小さな体で風を切るように走るその姿は、いつもの泣き虫碧人とは違って、ちょっとカッコよく見えたんだ。

 やがてわたしたちは中学生になり、部活を決めなきゃいけなくなった。
 わたしは帰宅部がよかったのに、「あなたは家で勉強なんてしないんだから、せめて部活には入りなさい」ってお母さんに言われてしまい……「入りたい部活がない」って答えたら、「じゃあ陸上部に入りなさい」と勝手に決められてしまった。

 理由は碧人が入部したから。「帰りが遅くなっても、碧人くんと一緒なら安心ね」だって。
 まぁ、わたしも運動は苦手ではなかったし、結局お母さんの言うとおり、陸上部に入ったんだ。

『ねぇ、夏瑚ー! 知ってるー?』

 陸上部の同じ学年、男女六人は仲が良くて、その日も練習のあと、いつもの公園でふざけあっていた。

『碧人がなんで、陸上部に入ったか』

 スポーツドリンクをぐびぐび飲んでいたわたしに、響ちゃんがにやにやしながら聞いてくる。

「は? 知らなーい。そんなの」
『小学一年生のときにね、夏瑚にカッコいいって言われたのが忘れられなくて、走るのやめられなくなっちゃったんだってー』

 響ちゃんの声に、碧人が勢いよく割り込んでくる。

『は? おれ、そんなこと言ってねーぞ!』
『嘘だぁ、いっせーから聞いたよ。碧人がそう言ってたって』

 碧人が一成をにらむ。一成はへらへら笑っている。

『碧人もしかしてそのころから、夏瑚のこと好きだったんじゃないのー?』

 響ちゃんにひやかされ、碧人がこっちを向いた。わたしはへらっと笑う。