「わたしは大丈夫だよ?」

 ハッと顔を上げた碧人と目が合う。碧人の目からは涙があふれている。小さかった子どものころのように。

「わたしは大丈夫。へんなメッセージ送っちゃってごめん」

 碧人の前で笑顔を作り、わたしの腕をつかんでいる手を引き離す。

「碧人は新しい場所で、新しい生活はじめたのにね。もう会いたいなんて言わないから、安心して?」
「なに言ってんだよ!」

 碧人を無視して立ち上がる。だけど碧人も立って、わたしの腕をもう一度つかんだ。

「なんでそんなこと言うんだよ!」
「離して。わたしのことは、ほっといて」
「ほっとけないから、来たんだろ!」

 碧人がわたしの腕を引き寄せた。芝生の上に、碧人のスマホが落ちる。

「返事のこない相手にずっと話しかけたりして……毎日毎日バカみたいに……もうこんなの見てられないんだよ!」

 碧人の顔が目の前に見える。碧人はやっぱり泣いている。

「おれ、来るなって言われても来るから」

 ひどくかすれた、碧人の声。

「追い返されても……何度だって夏瑚に会いに来るからな」

 碧人の手がそっと離れた。わたしはその場に立ちつくす。
 碧人はわたしから顔をそむけると、少しかがんでスマホを拾い、「家まで送る」ってつぶやいた。