『夏瑚……』

 すぐそばから声がした。

『行かないで……わたしをひとりにしないで……』
「美冬……」

 わたしの足をつかむ、頼りない力。赤くにじんだ、すがるような瞳。

『早く逃げろ! 爆発するぞ!』

 ごめん……美冬。

 わたしは必死だった。自分が助かるために必死だった。
 だから瀕死の親友を置き去りにして、這いつくばってその場から……

「夏瑚」

 碧人の声が聞こえた。
 ぼうっと視線を合わせると、碧人がわたしの前にしゃがみこんだ。

「ごめん」

 碧人が言った。真っ赤な目をして。

「おれ、逃げたんだ。おまえが入院して、つらい思いをしている間に」

 碧人がわたしの腕をつかむ。その手はかわいそうなくらい震えていた。

「怖かったんだ。みんないなくなっちゃって……なのにおれだけほとんど無傷で助かって……おれひとりであの学校に戻るのが、どうしても怖かった。だから引っ越したいって、父さんに頼んだ」

 わたしは黙って碧人の声を聞く。碧人はわたしの腕をつかんだまま、うずくまる。

「おれが逃げたらダメなのに……夏瑚にはもう、おれしかいないのに……」
「碧人」

 わたしは碧人を見下ろして言った。