「碧人……久しぶり」

 わたしは碧人の前でにっこり笑った。髪をつかんだままの碧人が、ちらっとこっちを見る。

「ほんと久しぶりだよね、碧人に会うの。なんにも言わないで、いなくなっちゃうんだもん。ひどくない?」

 碧人は手をおろし、じっとわたしを見つめた。わたしは笑顔のまま、碧人に言う。

「碧人もサボり? まだ授業中でしょ? どこの学校行ってるの?」

 少し強い風が吹いた。わたしの長く伸びた髪が揺れる。
 すると碧人が、苦しそうに声を出した。

「もう……やめろよ」

 碧人がポケットからスマホを取りだす。

「もうこういうのやめろ」

 わたしの目の前に、碧人がグループトークの画面を見せた。
 ずっとずっとわたしだけの言葉が、むなしく並んでいる。

「こんなことしても……誰も戻ってこない」

 わたしはまっすぐ碧人の顔を見上げたまま、その声を聞く。
 碧人はぎゅっと唇をかみしめてから、叫ぶように言った。

「わかってるだろ! もう誰もいないんだ! おれたち以外、みんな死んじゃったんだから!」

 おれたち以外、みんな死んじゃった――

 頭のなかで何かがぶつかり、真っ赤な色がはじけ散った。

 ぐちゃぐちゃになったバス。いままで感じたことのない痛み。あちこちから聞こえてくる、叫び声やうめき声。
 なにが起こったの? 痛い。苦しい。逃げなきゃ。助けて。