遊具で遊ぶ子どもたちのはしゃぎ声が、遠くから聞こえてくる。
 わたしはバスケットゴールのそばのベンチに座って、ぼうっと風を受けていた。

【いまからおれが会いに行く】

 スマホの画面に浮かんだ文字。
 胸が苦しくて、いますぐ逃げだしたかったのに……わたしはどうしてここにいるんだろう。

「……夏瑚」

 ものすごく長かったような、ほんの一瞬だったような、感覚のつかめない時間のあと、誰かがわたしの名前を呼んだ。

「夏瑚」

 ゆっくりと、ゆっくりと顔を上げる。
 目の前で息を切らしている、わたしとは違う制服を着た男の子。

 生まれつきの茶色っぽい髪。ぱっちりした二重の目。男子にしては小柄な体。
 わたしは彼のことを、よく知っていた。

「……碧人(あおと)

 乾いた唇でつぶやく。
 男の子の表情が歪み、わたしから顔をそむけ、自分の髪をくしゃっとつかむ。

 ああ、そうだ。碧人だ。

 ずっととなりの家に住んでいて、保育園も小学校も中学校も一緒だったのに、わたしの知らないうちに引っ越してしまった子。