うとうととした浅い眠りのなかで、わたしは夢を見ていた。
 一年前、中学三年生のころの夢だ。

『夏瑚ー! また遅刻だよー』
「ごめんごめん!」

 わたしは埃っぽいグラウンドに向かって走っている。
 呼んでいるのは陸上部の仲間だ。

 親友の美冬は、小柄でかわいらしい子。おとなしくておっとりしているくせに、足が速い。

 背が高くて美人な響歌(きょうか)は、面倒見の良いお姉さんタイプ。跳んでいる姿もすっごく綺麗。

 部長の瑛介(えいすけ)くんは冷静沈着。後輩からも慕われている、努力家の長距離ランナー。

 お調子者の一成(いっせい)はムードメーカー。どんな大会でも緊張しない、鋼の心臓を持っている。

 それからもうひとり、いつも楽しそうに笑っていて、誰よりも速く100メートルを駆け抜けていた男の子……

 あれ、誰だっけ?
 ずっと一緒にいたような気がするのに、思い出せない。

『夏瑚! 早くしろ!』

 背の高い男のひとが、わたしの名前を呼んだ。

「マキ先生!」

 陸上部顧問の蒔田(まきた)先生。
 若くてカッコよくて優しいマキ先生は、みんなの人気者だった。

『先、行ってるぞ、夏瑚!』
「え、ちょっと待ってよー」

 先生と部員たちが走りだす。わたしは追いかける。だけどどうしても追いつけない。足が絡んで、うまく動いてくれないんだ。

 みんなとの距離がどんどん開いていく。わたしは必死に走る。

「待ってってば! みふゆ! きょうちゃん! ぶちょー! いっせー!」

 わたしは叫んだ。泣きながら。

「マキ先生!」

 だけどみんなの姿がどんどん遠くなって、やがて黄色い光のなかに消えていった。