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「水原さーん、水原夏瑚さーん。もう六時間目終わりましたよー。そろそろ起きてくださいねー?」
夏の夕暮れの風鈴みたいな、涼やかな声が聞こえる。
ほんとうは眠ってなんかいなかったけど、「うーん……」なんてうなり声をあげながら寝返りをして、保健室の先生を困らせる。
「水原さーん?」
カーテンの陰から顔を出したのは、白衣のあんまり似合わない、鴨川絵里先生。
二十代後半にしては童顔な彼女のことを、この高校の生徒たちは親しみを込めて、「鴨ちゃん先生」って呼んでいる。
「ほら、水原さん! もう起きなさい!」
鴨ちゃん先生の声が、1ランク音量アップしたところで、わたしは「はぁい」と返事をした。
先生は白衣の上から腰に手を当て、わたしを見下ろす。そしてちょっと口元をゆるめてから、カーテンの向こうに行ってしまった。
わたしはゆっくりと起き上がる。乱れた制服と伸ばしっぱなしの髪をもそもそと直し、上履きのかかとを踏んだまま、カーテンの外へ出た。
「水原さーん、水原夏瑚さーん。もう六時間目終わりましたよー。そろそろ起きてくださいねー?」
夏の夕暮れの風鈴みたいな、涼やかな声が聞こえる。
ほんとうは眠ってなんかいなかったけど、「うーん……」なんてうなり声をあげながら寝返りをして、保健室の先生を困らせる。
「水原さーん?」
カーテンの陰から顔を出したのは、白衣のあんまり似合わない、鴨川絵里先生。
二十代後半にしては童顔な彼女のことを、この高校の生徒たちは親しみを込めて、「鴨ちゃん先生」って呼んでいる。
「ほら、水原さん! もう起きなさい!」
鴨ちゃん先生の声が、1ランク音量アップしたところで、わたしは「はぁい」と返事をした。
先生は白衣の上から腰に手を当て、わたしを見下ろす。そしてちょっと口元をゆるめてから、カーテンの向こうに行ってしまった。
わたしはゆっくりと起き上がる。乱れた制服と伸ばしっぱなしの髪をもそもそと直し、上履きのかかとを踏んだまま、カーテンの外へ出た。