「というわけで、制服びしょ濡れになっちゃってね。今日はジャージで登校してきたってわけ」

 翌日は朝から良い天気だった。
 ぬかるんでいたグラウンドも、昼前には乾いていた。

「で、ジャージ着てきたついでに、たまには体育の授業も受けてみようかなぁなんて」

 グラウンドの隅でストレッチしながら、あははっと笑ったら、クラスの女の子たちもぎこちなく笑った。

「こらぁ、そこ、おしゃべりしてないで並べー!」

 体育教師が、100メートル走のスタート地点から怒鳴っている。
 筋トレ大好き、筋肉サイコーって言いだしそうな、見るからに熱血っぽい男性教師だ。

 わたしたちは急いでそこへ向かう。

「でも水原さん。今日は短距離走だけど、足は大丈夫なの?」

 ひとりの女の子が、わたしのとなりを小走りしながら聞いてくる。
 昨日の放課後、教室でしゃべったテニス部の子。走るたびにポニーテールが、ぴょこぴょこと揺れている。

「あ、うん。大丈夫だよ。全力疾走はできないけど」
「無理しないでね?」

 優しい子だなぁ。ちょっと美冬(みふゆ)に似てるかも。