「いったぁ……」

 廊下にしりもちをついて、足をさする。

「恥ずかし……」

 誰も見ていなくてよかった。

 お尻をついたまま手を伸ばし、ポケットから落ちたスマホを拾い上げる。
 そのついでに指を動かして、トークアプリの画面を開く。

【でもぶちょーは喜んでるかな? 筋トレ大好き人間だもんねー】

 目に映ったのは、わたしが送ったメッセージ。
 誰からの返事も、送られていない。

 わたしはぎゅっとスマホを抱きしめる。

 階段の上から、男子生徒の騒がしい笑い声が降ってきた。
 わたしはのろのろと体を動かし、立ち上がってスカートをはたく。そしてスマホをポケットに突っ込み、背筋を伸ばした。

「帰ろ……」

 一歩踏みだしたら、ずきっと痛みが走った。

 思うように動かなくなった足? ううん、違う。
 胸の奥が、ひりひりと痛いんだ。

 歯を食いしばり、重い足を引きずりながら歩く。

 なんとか昇降口まで進んだところで、傘立てを見た。自分の傘を探したが、見当たらない。

「うそでしょ……パクられた?」

 まあ、どこにでもある透明なビニール傘だったし。
 名前を書いてあったわけでもないし。

 わたしはそのまま雨のなかに、ローファーを履いた足を踏みだす。

 もうどうなってもいいや。

 六月の雨は生ぬるくて、思ったよりも気持ちよかった。