碧人がスタートラインに立った。
 わたしの心臓がドキドキと高鳴る。

 もうすぐ碧人が走る。ずっとずっと、わたしは碧人が走る姿を見たかった。

「ドキドキするね」

 となりで鴨ちゃん先生が、胸の前でお祈りするように指を組んでいる。

「うん」

 わたしもドキドキしていた。まるで自分も一緒に碧人と走るみたいに。
 その瞬間、ふっとわたしのまわりに、みんながいるような気がした。

 瑛介くん、一成、響ちゃん、美冬、それからマキ先生。
 そうか、みんな碧人の応援に来てくれたんだね。

 わたしは両手を口元に当て、すうっと大きく息を吸いこむ。そしてお腹の底から、思いっきり声をだす。

「碧人ー! がんばれー!」

 グラウンドまでは遠くて、届きそうもなかったけれど、それでもわたしは精一杯声を張り上げた。

 そのとき碧人がこっちを見た。わたしと碧人の目が合って、碧人が小さく笑った気がした。

「碧人……」

 碧人が位置につく。
 その姿を見ていたら、目頭がじんわりと熱くなった。

『幸せになろうよ。みんなの分まで』

 うん。なろう。幸せになろう。

 なぜかあふれた涙を、手の甲で乱暴に振り払う。
 泣いてる場合じゃない。進め。進め。前に進め。

 パンっとスタートの合図が鳴った。
 選手たちが一斉に駆けだす。

「碧人っ!」

 青い空の下、青い風になって、わたしも一緒に走る。

「碧人! いけーっ!」

 わたしたちの未来は、きっと明るい。