「水原さんは、部活入らなかったの?」

 最初の子が聞いてきた。わたしは首を縦に振る。

「うん。中学のときは陸上部だったんだけどね」
「へぇ、じゃあ足速いんだ」
「どうかなぁ……いちおう短距離やってたけど」

 女の子たちが「へー」とか「すごーい」とか言うから、わたしはちょっと恥ずかしくなって頭をかく。

「でも足怪我しちゃって。もう陸上はできないんだ」

 みんなの声が途切れて、笑顔が微妙にひきつった。
 ヤバい。なんか気を使わせちゃった?

 わたしはあははっと声を立てて笑う。

「だけどぜんぜん気にしてないから。日常生活に問題ないし、体育だってできるしさ。あっ、今日も体育サボっちゃったけど」

 わたしがもう一度笑ったら、みんなも控えめに笑った。

 足を怪我して、それでいじけて、保健室に逃げ込んでいるかわいそうな子、なんて思われたら嫌だなぁ。
 失敗した。陸上部だったなんて、言わなきゃよかった。

「じゃ、またね」

 ひらりと手を振って、女の子たちの輪から離れる。

「またね、水原さん」
「バイバイ」

 お弁当箱しか入っていない、からっぽのリュックを背負い、笑顔で教室をあとにする。

 残ったあの子たちは、なんの話をするんだろう。

「水原さんって、へんな子だね、なーんて言ってたりして」

 ふふっと笑って階段を駆け下りた……つもりだったのに。
 足がうまく動いてくれなくて、わたしは最後の数段をずるっと滑り落ちた。