「大丈夫だよ、水原さんは」

 となりを見ると、鴨ちゃん先生が優しい顔で笑っていた。

「大丈夫。水原さんの未来は明るい!」

 先生がぐっとこぶしを握って言うから、わたしもなんだかその気になって、「うんっ」って強くうなずいた。
 それから先生の真似をして、わたしもこぶしをぎゅっと握りしめ、叫ぶように言う。

「きっと鴨ちゃん先生の未来も明るいよ!」

 先生は一瞬、泣きだしそうな顔をしてから、すぐににっこり微笑んだ。
 そしてわたしに体をすり寄せ、肘をぐりぐり押しつけながら聞いてくる。

「ねぇねぇ、それより、水原さんの彼氏ってどこー?」
「えっ、かっ、彼氏って……」
「彼氏じゃないの?」

 うーん、よくわからないけど、彼氏ってことでいいのかな?

「か、彼氏で、いいです」

 ぼそぼそとつぶやいてから、競技場を見まわす。
 すると100メートルのスタートラインに向かう、碧人の姿が見えた。

「あっ、いた」
「え、どこどこ?」
「あの第3レーンに立っている、ちょっと髪が茶色い子」

 そう、碧人の髪は生まれつき茶色くて、わたしはずっとうらやましかった。
でもそんなわたしの気持ち、碧人はきっと知らないんだろうな。
 今度碧人に話してみよう。

 あ、鴨ちゃん先生のことも、教えてあげなきゃ。
 それからわたしの育てたひまわりも、見せてあげよう。

 離れていた分、碧人と話したいことやしたいことがたくさんある。

 これから碧人と、たくさん話そう。
 碧人と一緒にしたいことを、たくさんしよう。