晴れ渡った空の下の陸上競技場。高い観客席からトラックを見下ろす。

 一年前、わたしもあそこに立っていた。100メートル先のゴールを見つめて、速く走ることだけを考えていた。

 だけどそんな毎日はあたりまえじゃなくて、突然ふっと壊れてしまうことを、いまのわたしは知っている。

 ポケットに手を突っ込み、スマホを取りだした。トークアプリを開くと、陸上部のみんなで作ったグループ名が目に映る。

『みねさき三中陸上部!』

 その文字をやさしくなでるようにタップする。トーク画面に表示されているのは、新しいメッセージ。

【9:15 アオトが退会しました】

 わたしは静かに目を閉じてから、『退会』の画面を開く。

【グループを退会しますか?】

 ゆっくりと指先を動かし、『退会』の文字を押した。

「さよなら、みんな。またいつか、会おうね」

 わぁっと歓声が上がる。眩しさに目を細めながら、トラックを見下ろす。
 知らない学校の陸上部員が、接戦のままゴールした。