「あははっ、やっぱり夏瑚、おもしれー!」
「は? なに笑ってるの? わたし真剣に言ってるんですけど」

 何日も何日も悩んで、昨日なんてほとんど眠れなくて。
 それでも碧人に、どうしてもこの気持ちを伝えたくて。

「好きなんじゃない?」
「へ?」

 碧人が少し体をかがめて、わたしの顔をのぞきこんできた。

「夏瑚、おれのこと、好きなんじゃない?」

 ぱっと碧人から手を離し、顔を覆った。インフルエンザに罹ったときみたいに、顔が熱い。
 するとそんなわたしの体を、碧人がぎゅっと抱きしめた。

「夏瑚」

 碧人の胸のなかで、その声を聞く。

「幸せになろう?」

 その言葉が、じんわりと染みこんでくる。

「幸せになろうよ。みんなの分まで」

 わたしたちは幸せになってもいい。

 笑いたかったら思いっきり笑って、好きなものは好きだって言って、おいしいものをお腹いっぱい食べて、少しずつ前に進んでいけたらいい。

 立派に生きることはできないかもしれないけど、わたしたちはわたしたちにできることを精一杯やっていけばいい。

 後悔、しないように。

「うん」

 かすれる声で答えて、碧人の背中に腕をまわした。
 そしてその手で、碧人の体を思いっきり抱きしめる。

「幸せになろう。碧人」

 碧人と体を寄せ合って、目を閉じた。

 美冬――

 心のなかで、そっとつぶやく。

 美冬の好きになったひとは、いいやつだよね。
 でもわたしも知ってたよ。碧人がいいやつだって、ずっと前から知ってた。

 ねぇ、美冬? わたし、碧人のことが好きみたい。
 好きなの。大好きなんだ。これからもずっと一緒にいたい。

 やっと美冬に言えたね。わたしの気持ち。
 聞いてくれて、ありがとう。

 ばいばい、美冬。
 いつかまた、会おうね。