『夏瑚ー!』

 瑛介くん、一成、響ちゃん、美冬、それにマキ先生が手を振っている。

『早くしろよー』
『おいてくぞー』

 みんなが一斉に走りだす。わたしも急いで追いかける。
 だけどみんなの姿が、どんどん遠くなって追いつけない。
 行先には、大きなひまわりの花が咲いている。

「待って! おいてかないで!」

 足がもつれる。走れない。
 みんなの姿が、ひまわりの向こうに消えてしまう。

『夏瑚』

 そんなわたしの前に誰かが立った。顔を上げると、そこにいたのは美冬だった。

「美冬……」

 美冬はわたしの前でやわらかく微笑む。そして別の方向を指さした。

『夏瑚の未来はこっちじゃないよ。あっちでしょ?』
「え……」

 美冬の差した先を目で追う。

「碧人……」

 そこに立っているのは碧人だった。

『夏瑚』

 わたしはハッと美冬に振り返る。美冬はやっぱり静かに笑っている。

『幸せになってね?』
「美冬……」
『ばいばい』
「いっ、いやだ! いやだよ! 美冬っ、行かないで! わたしをおいて行かないでよ!」

 美冬に向かって手を伸ばす、だけどわたしの手は届かない。
 いつも甘いキャンディーをくれた美冬の手に、わたしの手が届かない。

『いつかまた……会おうね』

 美冬の体が、金色の雨のなかに消えていく。

 ほんとうに、ほんとうに行っちゃうの? 寂しいよ。もっと一緒にいたかったよ。
 一緒に遊んで、一緒に笑って、恋をして、ケンカして、仲直りをして……一緒に大人になりたかったよ。

 大好きだったんだよ。美冬――

 目が覚めたら、まぶたが濡れていた。
 窓の外はよく晴れていて、眩しい日差しが部屋のなかに差し込んでいた。