カラリとドアを開くと、教室のなかに数人の女子生徒が残っていた。
 窓際の席に集まって、おしゃべりをしていたみたいだ。だけどわたしが一歩足を踏みこむと、ぴたっと話をやめ、ちらちらと控えめにこっちを見た。

 たぶん、いつも授業をサボってばかりの、わけのわからないクラスメイトを、不審に思っているんだろう。
 その気持ち、よくわかるよ。入学してからわたしは、クラスのひととほとんどしゃべったことがない。

 わたしは荷物のある自分の席ではなく、みんなのそばに近づいて、にっこり笑ってみせた。

「なに話してたの?」
「えっ」

 女の子たちがぎょっとした目でわたしを見る。まさか話しかけられるとは、思ってなかったようだ。

 わたしはみんなの輪に入り、くるりとまわりを見まわす。するとひとりの子が、苦笑いしながら答えてくれた。

「部活の先輩の話だよ。わたしたちテニス部なんだけど、今日は雨で休みなの」

 なるほど。それで愚痴大会でも開いていたのか。

「そうなんだぁ」
「水原さんは? 保健室にいたの?」

 別の子が、おそるおそるといった感じで聞いてくる。

 へぇ……わたしの名前、覚えてくれているんだ。入学してから、ほとんど保健室に入り浸っていたのに。

「うん。今日は頭痛くて。雨だからかなー」
「ああ、わかる。気圧のせいで頭痛くなることあるよね」

 また違う子が、話を合わせてくれた。わたしはみんなの前でへらっと笑う。

 窓の外では、まだ雨がしとしとと降っていた。校庭の木が揺れているから、風も吹いてきたのかもしれない。