「碧人くんってさ、ほんとうに水原さんのこと、好きだよね?」
「へ?」
「気づいてたんだ。碧人くんが水原さんとバスケしてるとこ見たときから」

 そういえばこの子、わたしたちのあとをつけていたんだっけ。
 わたしは碧人と何度も、バスケットゴールにボールを投げた日を思い出す。

「だって碧人くん、ほんとうに楽しそうに笑ってたんだもん。学校や部活では、あんな笑顔見せないのに」
「え……」
「水原さんといるときだけ、碧人くんは心から笑ってたんだよ」

 わたしは篠宮さんの顔を見る。篠宮さんは、ちょっと寂しそうな顔で笑う。

「しかたないな。碧人くんのことは、あきらめてあげる。まぁ、告るつもりなんて、最初からなかったけどね」
「ど、どういうこと?」

 篠宮さんが、にやっとわたしに笑いかける。

「あんたたち見てると、じれじれするの。だから早くくっつけばいいのにって思って、告白するって言ってみただけ」
「はぁ?」

 ぽかんと口を開けたわたしに、篠宮さんが言う。

「わたしは碧人くんに幸せになってほしいからさ。碧人くんがほんとうに好きなひとと、くっついてほしいの」

 わたしはカップを包む手に力を込めた。篠宮さんはもう一度ストローを吸ってから、わたしに告げる。

「感謝してよね。わたしに」

 そしてコーヒーを手に持ち、にっと笑って席を立つ。

「じゃね。わたしこのあと塾だから」

 篠宮さんが手を振る。短いボブヘアがさらっと揺れる。

「ちゃんと碧人くんに伝えなよ。水原さんの気持ち」

 去っていく篠宮さんに、わたしは言った。

「ありがとう! 篠宮さん!」

 篠宮さんは笑って、もう一度手を振った。