「せんせ?」
「うん?」

 ひまわりを抱きしめるようにして、先生が顔を上げる。

「どうしたの?」
「なにが?」
「先生……笑ってるのに、泣いてるみたいに見える」

 グラウンドから、野球部の金属バットの音が響いた。
 サッカー部の、掛け声も聞こえる。

 鴨ちゃん先生はしばらく黙ってから、そっとわたしの髪をなでてくれた。

「なんでもないよ。ちょっと昔のこと、思い出しちゃっただけ」
「昔のこと?」
「うん。わたしもね、つきあってた彼に、この花をプレゼントしたことがあって」
「えー、先生の彼氏? てか過去形?」
「そうそう、過去形」

 うふふっと笑う先生を見ながら、わたしはつぶやく。

「ねぇ、せんせ。恋をするって……どんな感じ?」

 先生は笑うのをやめてわたしを見てから、静かに窓の外に視線を移す。

「そうだなぁ……世界がキラキラ輝いて見えて、でもちょっと寂しくて、だけどすごく幸せな感じ、かな?」

 わたしは必死に想像する。そんなわたしを見て、先生がくすっと笑う。

「水原さんだって、もうしてるでしょ? 恋」

 かあっと顔が熱くなった。

「ま、ま、まさか!」

 だけど頭に碧人の顔が浮かんできて、離れてくれない。頭を抱えるわたしを見て、先生はくすくす笑っている。