歩行者信号が青に変わった。碧人の手がわたしの腰にまわる。
 その手がすごく大きくて、熱くて、心臓がびくっと跳ねた。

 ふたりの足が横断歩道の上を進む。
 碧人はやっぱり小さいころと違う。大きくなった手も、高くなった身長も、低くなった声も、おとなりに住んでいたかわいかった碧人とは違う。

『いたよ……好きなひと』

 いつかの碧人の言葉を思い出し、また鼓動が速くなる。

 おとなりに住んでいる、かわいい幼なじみと思っていたのは、わたしだけ?
 もしかして碧人はだいぶ前から、わたしのことをそういう目で見ていたの?

 美冬や篠宮さんが、碧人を見ていたときのような目で……わたしのことを……

「夏瑚? 大丈夫か?」

 気づけばマンションの前まで来ていた。

「あ、ありがとう。ここまででいいよ」
「部屋まで送るよ、痛いんだろ?」
「いい! 大丈夫! ほんとにマジで! あ、碧人が走るとこ、見に行くから。がんばってね!」

 碧人は少し目を細め、なにも言わずにうなずいた。
 わたしはなんだか恥ずかしくて、とにかくここから離れたかった。

 足を引きずりながら歩くわたしのことを、碧人がじっと見ているのがわかる。

 どうしちゃったんだろう。わたし。
 碧人に触れられた背中や腰が、しびれるように熱い。