「昔さ」

 コンビニの駐車場を出て、歩道を歩きながら碧人がつぶやいた。
 今日もバス通りは、車が多く行き交っている。

「おれ、夏瑚に、おんぶしてもらったことあるよな?」
「え? そんなことあったっけ?」
「あったよ。公園で遊んでて、おれがコケて。もう歩けないって泣いたら、夏瑚がおんぶしてうちまで帰ってくれたんだ」
「ああ……なんとなく思い出した」

 小学校低学年だったかもしれない。あのころ碧人は、わたしより体が小さくて。泣き虫で甘ったれで。碧人はわたしがいなくちゃダメなんだ、なんて、使命感にかられていた。

「あのころの碧人、かわいかったなぁ。わたしより小さくて」

 といっても、同い年の子をおんぶして歩くのは大変だった。でもわたしがなんとかしなくちゃって必死で……歯を食いしばって、家までたどり着いたんだ。

 横断歩道で立ち止まる。歩行者信号は赤だ。

「いつだっけ。おれが夏瑚の背を追い越したの」
「中学になってからじゃない? 急にぐんぐん伸びちゃってさ、かわいくないっての」

 碧人がわたしのとなりであははっと笑った。こんなふうに笑っていると、昔の碧人と変わらない。