「はー、あっちぃ」

 碧人は息を切らしながら、わたしのとなりに腰掛けた。肩が大きく上下している。

「大丈夫? 学校からダッシュで来たの?」
「うん。夏瑚が待ってると思って」
「わたしなんかどんだけ待たせたっていいのに。どうせ暇なんだからさ」

 碧人がわたしのとなりで、あははっと笑った。額の汗が、きらっと夏の日差しに光る。
 その横顔がわたしには眩しすぎて、碧人からさりげなく視線をそむけた。

「なにかあったの?」

 わたしの声に、碧人が答える。

「おれ、来週100メートル走るから」
「えっ」

 思わず振り返ってしまう。碧人はわたしのとなりでにこにこ笑っている。

「もしかして、選手に選ばれたの?」
「うん」
「大会に出れるの?」
「そう」
「よ、よかったぁ……」

 わたしはベンチの背に体をあずけ、胸をなでおろした。

 碧人が部活をサボってしまったり、走れなくなったりしたことを知っていたから、内心ひやひやしていたんだ。

「夏瑚のおかげだよ」
「まさか! 碧人ががんばったからだよ」

 体を戻し、碧人のほうを向く。碧人はやっぱりにこにこしている。

 あれ、今日の碧人、すごく楽しそう。
 やっぱり選手になれたの、嬉しいんだ。