「どうしたの? そのお花」

 女の子のお母さんだ。赤ちゃんのいるお腹は、ますます大きくなっている。
女の子は立ち上がって、お母さんに言う。

「お姉ちゃんにもらったの」
「まぁ、ダメよ。悪いじゃない。お姉ちゃんにお返しして」

 お母さんの手が伸び、鉢植えを奪おうとした。けれど女の子は、ひまわりを守るように小さな胸に抱きしめた。

「いやっ。このお花、芽衣がお姉ちゃんにもらったの! ちゃんとお水をあげるって約束したの!」
「芽衣……」

 お母さんが困った顔をしている。

 ヤバい。また余計なこと、しちゃったかな……

「あの……」

 わたしが声をかけようとしたら、鉢を抱きしめる芽衣ちゃんの後ろから、お母さんが言った。

「それじゃあ、いただいてもいいですか?」

 芽衣ちゃんの顔が、ぱあっと明るくなった。わたしもなんだか嬉しくなる。

「はいっ! どうかかわいがってあげてください! よろしくお願いします!」

 ぺこっと頭を下げたら、お母さんがお腹をさすりながら「ありがとう」と少し笑った。
 わたしはにこにこ笑っている芽衣ちゃんに、「じゃあね」と手を振る。

「お姉ちゃん、ありがとう!」

 エレベーターに向かいながら、わたしの気持ちはほんわかと満たされていた。