青い風、きみと最後の夏

「やだなー、雨のなか歩くの」
「水原さん、徒歩だっけ?」
「うん。うち、駅の近くのマンション」
「けっこう距離あるね」
「でしょー? バスでもいいんだけどさぁ。乗り物は苦手だし」

 鴨ちゃん先生がちらっとわたしに視線を向ける。わたしはにかっと笑って続ける。

「酔いやすいんだよね。わたし」

 先生は小さく微笑むと、椅子をくるんっと回し、わたしを見た。

「頭痛はもう治ったの?」
「おかげさまで」

 返事のないスマホを机の上に置き、ポケットからミルク味のキャンディーを取りだす。

「せんせ、どうぞ?」
「ありがと」

 手を伸ばしキャンディーを差しだすと、鴨ちゃん先生も手を伸ばして、わたしからキャンディーを受け取った。

「水原さん、これ好きだよね」

 先生がキャンディーを片手ににこっと笑う。わたしも先生に向かって笑顔をみせる。

「うん。中学で同じ部活だった子が、気に入ってたやつなんだ」
「へぇ……」

 鴨ちゃん先生は包みを開けて、ミルク色のキャンディーを口のなかにぽいっと入れた。

「おいしいよね、これ」

 そう言われて、わたしはやっぱり嬉しくなる。友だちの好きなものを褒められるのは、気分がいい。

「そろそろ帰るよ」

 スマホをポケットに入れて、立ち上がった。

「はいはい。気をつけてね」
「また明日も来ようかなぁ」
「理由は?」
「熱が出る予定」

 鴨ちゃん先生はぷっと噴きだしてから、「勉強もちゃんとしようね」と言う。
 わたしは適当に「はぁい」と答えて、保健室を出た。