万緒の笑い声が響くリビングに、お母さんの声が聞こえた。

「夏瑚、時間大丈夫なの? 遅刻するよ」
「あ、やばっ」

 わたしは急いでパンにジャムを塗って、口に放り込む。

「いってきまふ!」
「あっ、このお花、先生にあげるんでしょ」
「あ、そうだった!」

 お母さんが差しだした、小さな植木鉢を受け取る。今日の朝、ミニひまわりが咲いたんだ。

「あのひまわり、お姉ちゃんがベランダで育ててたやつ?」
「そうよ」
「お姉ちゃん、ガーデニングになんか興味あったっけ?」

 万緒の不思議そうな声を聞きながら、わたしは鉢を抱えて靴を履く。

「じゃあ、いってきまーす!」
「いってらっしゃい。気をつけるのよ」
「勉強がんばってねー、お姉ちゃん!」

 ふたりの声を背中に、わたしはあわただしく外へ出た。