「ああ、ごめん、なんでもないの。ただ、夏瑚や碧人くんが楽しく過ごしているんだったら、ほんとうによかったって思って……」

 万緒がわたしのとなりで黙りこんだ。また微妙な空気が流れる。

 わたしが事故に遭ってから、わたしの家族はわたしに気を使うようになった。
 わたしがこの家族を、おかしな雰囲気にしてしまったんだ。

 わたしはぎゅっと唇をかみしめたあと、もう一度万緒のわき腹をくすぐってやる。

「こんのー! あんたが変なこと言うから、お母さんが泣いちゃったじゃん!」
「えー! あたしのせい? キャー!」

 万緒が笑い転げている。それを見て、いつのまにかお母さんも笑っている。

 事故の遭ったバスから脱出したあと、意識を失ったわたしは、生死の境をさまよっていたらしい。ぜんぜん覚えてないんだけど。

 病室で目を覚ましたとき、お母さんもお父さんも万緒も泣いていた。
 よかった。よかったって言って、泣いていた。

 わたしは走れなくなって、友だちや先生を失って、となりの家から碧人がいなくなったけど、それでもわたしの家族にとっては、わたしが生きていたことがなにより嬉しかったそうだ。

 お母さん、ごめんね。いっぱい心配かけてごめんなさい。
 でも大丈夫。わたしも碧人も、少しずつ前に進んでいるから。
 だからこれからも、わたしや碧人のことを、見守っていてね?