青い風、きみと最後の夏

「おっはよーございまーす!」

 保健室のドアを勢いよく開く。今日もこの部屋には、鴨ちゃん先生しかいない。
 鴨ちゃん先生は椅子をくるっと回転させて、目を丸くした。

「おはよ。今日はずいぶん早いね」

 わたしはにこっと笑って、慣れた調子で保健室のなかに入る。

「うん! なんか朝の目覚めが良くてさ。早起きするのも、たまにはいいねー!」

 今朝の空はよく晴れていた。夏のような青空に、白い雲がもくもく沸き上がっている。
 わたしはそばにあった椅子を引っ張りだして、鴨ちゃん先生のそばに座った。

「なんかいいことあった?」
「ううん、べつに」
「でもすがすがしい顔してるよ」

 鴨ちゃん先生がわたしに笑いかける。

「重い荷物を持つの、誰かに手伝ってもらえそう?」

 わたしの胸に、先生の言葉がじんわりと染みこむ。

「……うん、まぁ」

 碧人の顔を思い浮かべながら、曖昧に答えた。先生はもう一度にっこり微笑んで、わたしの頭をなでてくれた。

「わたしが手伝ってあげてもよかったんだけどなぁ」
「あっ、先生にも感謝してるよ、ほんとマジで!」

 鴨ちゃん先生がわたしの頭をなでながら、くすくす笑う。

「ほんとのほんとに、わたし鴨ちゃん先生のこと、大好きだから!」
「はいはい。嬉しいな。またいつでも遊びにおいでね」
「はぁい」

 わたしは先生の前で、笑顔をみせる。
 保健室のなかに、チャイムの音が響いた。

「予鈴だ。教室行かなきゃ」

 わたしは荷物を持って立ち上がる。

「ではっ! いってきます!」

 鴨ちゃん先生の前で敬礼したら、先生はあの風鈴みたいにさわやかな声で言った。

「いってらっしゃい。しっかり勉強しておいで」

 わたしは先生に手を振って、保健室を出る。そしてにぎやかな教室を目指して、足を動かした。