「夏瑚は……また走りたいって思う?」
碧人がつぶやいた。もしかしてわたしの髪を見て、そんなことを思ったのかもしれない。
「うーん……」
痛んだ毛先をいじりながら答える。
「走るのは好きだったけど……でもほかにも、好きなものは見つかると思うんだ。あ、いまは園芸にはまってるし」
「園芸?」
「うん。種から育てたお花が、もうすぐ咲くんだよ。今度碧人にも見せてあげる」
碧人がじっとわたしを見て笑う。
「うん。楽しみにしてる」
あたりはいつのまにか薄暗くなっていた。碧人は誰もいない競技場をもう一度見つめて、静かにつぶやいた。
「おれ……明日からまたがんばるよ」
わたしは碧人のとなりに並ぶ。
「今日ここに来たら、すごく走りたくなった。走れなくなったみんなのために、じゃなくて、自分のために」
こくんとうなずく。
「でもやっぱりダメかもしれない。怖くて、走れなくなるかもしれない」
わたしはもう一度うなずく。
「だけどそれでも……おれ、走るのが好きなんだ」
「うん」
わたしは碧人の横顔に向かって言う。
「わたしも……碧人が走ってる姿、好きだよ」
碧人がわたしを見て、嬉しそうに笑う。わたしの胸が、少し痛む。
ちょっと蒸し暑い風が吹き、またわたしの髪が揺れた。わたしは耳元で髪を押さえながら、すっかり雲の晴れた空を見上げる。
うっすらとした闇のなかに、煌めく星がひとつ見えた。
碧人がつぶやいた。もしかしてわたしの髪を見て、そんなことを思ったのかもしれない。
「うーん……」
痛んだ毛先をいじりながら答える。
「走るのは好きだったけど……でもほかにも、好きなものは見つかると思うんだ。あ、いまは園芸にはまってるし」
「園芸?」
「うん。種から育てたお花が、もうすぐ咲くんだよ。今度碧人にも見せてあげる」
碧人がじっとわたしを見て笑う。
「うん。楽しみにしてる」
あたりはいつのまにか薄暗くなっていた。碧人は誰もいない競技場をもう一度見つめて、静かにつぶやいた。
「おれ……明日からまたがんばるよ」
わたしは碧人のとなりに並ぶ。
「今日ここに来たら、すごく走りたくなった。走れなくなったみんなのために、じゃなくて、自分のために」
こくんとうなずく。
「でもやっぱりダメかもしれない。怖くて、走れなくなるかもしれない」
わたしはもう一度うなずく。
「だけどそれでも……おれ、走るのが好きなんだ」
「うん」
わたしは碧人の横顔に向かって言う。
「わたしも……碧人が走ってる姿、好きだよ」
碧人がわたしを見て、嬉しそうに笑う。わたしの胸が、少し痛む。
ちょっと蒸し暑い風が吹き、またわたしの髪が揺れた。わたしは耳元で髪を押さえながら、すっかり雲の晴れた空を見上げる。
うっすらとした闇のなかに、煌めく星がひとつ見えた。