涙を拭いたわたしは、碧人と一緒に競技場を出た。
 そして碧人に「おばさんが心配するから」と言われ、家に電話をかけた。

「うん。ちょっと遠くのグラウンドまで練習に来てて……えっ、ああ、碧人がだよ。だからすこし遅くなる。でも碧人と一緒に帰るから心配しないで」

 お母さんには「あんまり遅くならないように」とだけしか言われなかった。
 ありがたいんだけど、なんだかちょっと拍子抜けだ。

「電話したよ」
「うん」
「碧人くんと一緒なら、心配ないねだって」
「ははっ、おれって夏瑚んちの家族に、信用されてるよなぁ」

 それはわたしたち家族がみんな、碧人を「幼なじみ」と認識しているから。

 雨上がりの風が吹いて、わたしの髪を揺らした。それを見た碧人が、ひとりごとみたいにつぶやく。

「髪……伸びたな」
「え、ああ、うん。美容院行くのめんどくさくて」

 去年までわたしはずっとショートヘアだった。短いほうがシャンプーが楽だし、走るとき邪魔にならないし。
 でも走れなくなってから、もうどうでもよくなってしまった。