「おれ、夏瑚のことが好きだ」

 碧人の声が、じんわりとわたしの胸に染み込む。

「これからもずっと、一緒にいたい。夏瑚が重い荷物を持ってるなら、おれが半分持ってあげたい」

 わたしはぎゅっと目を閉じる。
 まぶたの裏が熱くなって、わたしの頬を涙がこぼれた。

「夏瑚?」

 涙を流すわたしのそばに、碧人が駆け寄ってくる。わたしはそっと目を開き、碧人の顔を見つめる。

「碧人……わたしも……わたしも碧人と一緒にいたい」

 わたしの声が、震えている。

「でもそれは……いままでどおり、幼なじみとしてで……わたし、碧人のことは……」

 小さいころから、気づけばわたしのそばにいて。
 きょうだいみたいな、家族みたいな存在だった。

 だからいまでも碧人といると安心できる。これからも、そばにいてほしい。
 でも美冬や、篠宮さんのような恋する目で、わたしは碧人を見たことがないんだ。

 だって碧人は、『美冬の好きなひと』だから。

「……ごめん」

 うつむいたわたしの耳に、碧人の声が聞こえてくる。

「いいよ」

 わたしはハッと顔を上げる。碧人はおだやかな顔でわたしを見ている。

「いいよ。夏瑚はそのままで。おれ、いままでどおり夏瑚の幼なじみとして、ずっとそばにいるから」
「えっ、で、でも……それじゃ悪い……」

 碧人があははっと声を立てて笑った。

「いいんだよ。おれいま、自分の気持ちを伝えられて、超スッキリしてるんだ」
「碧人……」
「夏瑚だって、そうだろ?」

 わたしはきゅっと唇を結んで、小さくうなずく。

「ごめん」
「いいって」

 碧人はもう一度笑って、それから競技場に目を向けた。
 広いトラックが夕陽に包まれる。
 わたしたちはふたり同時に空を見上げる。

 あの日、途切れてしまった夏は、やっと終わった。
 そして今日から、新しい季節がはじまるんだ。