コンビニで買ったビニール傘をさし、川沿いの道を歩いた。

 山に囲まれた田舎町。雨の勢いはますますひどくなり、スニーカーのなかに水が浸み込んで気持ち悪い。
 だけどわたしたちは競技場を目指して、黙々と歩いた。

 そこに行っても、なにかがあるわけではない。それでもわたしたちは、そこに行くしかないような気がして……

 歩きながら、となりの碧人をちらっと見る。碧人はまっすぐ前を見つめている。その横顔を見ていたら、こんな大雨のなかつきあわせてしまったことを、申し訳なく思った。

「碧人……なんか、ごめん」
「え?」
「こんなところまでつきあってもらっちゃって」

 すると碧人が、傘のなかでふっと笑った。

「なに言ってんだよ、いまさら」
「まぁ、いまさらだけどさ。こんな天気になるとは思ってなかったし」

 碧人が空を見上げて、ははっと笑う。

「いいんだよ。おれが行きたくて歩いてるんだから」
「え?」

 わたしは少し傘をずらして、碧人の顔をのぞきこむ。

「最初は仕方なくついてきたけど……いまはおれも思ってる。どうしてもあそこに行きたいって」

 碧人が足を止め、わたしを見た。わたしも立ち止まって、碧人を見つめる。
 傘のなかに雨の音だけが、激しく聞こえる。

「足、大丈夫か?」
「あ、うん」
「もう少しだから、がんばろ」

 碧人がそう言って、わたしに笑いかけた。
 わたしの鼓動が小さく跳ねる。

 なんだろう、この気持ち。へんな感じ。

「夏瑚?」

 碧人の顔が少し曇った。

「やっぱ少し休もうか?」
「ううん、ほんとに大丈夫」

 わたしはいつもみたいに、にかっと笑って歩きだす。碧人がその後ろをついてくる。
 だけど一度跳ねた心臓は、なぜだかずっとドキドキし続けていた。