終点でバスを降りたわたしは、へなへなとそばにあったベンチに座りこんでしまった。
 隣町の駅のロータリー。わたしたちの乗っていたバスが、また走りだして去っていく。

「大丈夫か?」
「……うん」

 この前と同じように背中をさすってくれる碧人に、へらっと笑ってみせる。

「今日はなんとか……バスに乗れたよ?」
「そうだな」
「成長してるでしょ? わたし」

 碧人が小さく笑ってうなずく。

「がんばってるよ。夏瑚は」

 碧人の言葉が、胸に染みこむ。

「おれ、なんか飲み物買ってくるから。おまえここで休んでろよ」
「あれ? 今日の碧人、やさしー」
「おれはいつだってやさしいだろ?」

 碧人がふんっと鼻で笑って、駅前にあるコンビニに向かって走っていく。その背中を見送りながら、わたしはスマホを取りだし、篠宮さんにメッセージを送った。

【碧人をちょっと借りるよ。ご心配なく】

 すぐに既読の文字が表示され、『OK!』とうさぎが言っているスタンプが返ってくる。
 わたしは少し笑って、スマホをしまった。そこへ碧人がコンビニの袋をぶら下げて戻ってくる。

「はい。これ。おれのおごり」

 碧人がスポーツドリンクのペットボトルを渡してくれる。ひんやりと冷たい。

「ありがと」
「それからこれも」

 いたずらっぽく笑った碧人が、袋のなかから水色のアイスバーを二本取りだした。
 そしてわたしのとなりに腰掛けて言う。

「まぁ、ゆっくり行こうよ」

 わたしはアイスを受け取りながら、笑ってうなずいた。