西高校前のバス停からバスに乗る。この前と同じように碧人と並んで座る。
 ゆっくりと走りだしたバスのなか、わたしは大きく息を吐いた。

 落ち着いて、落ち着いて。大丈夫、ぜったい大丈夫。
 するととなりから、碧人のか細い声が聞こえてきた。

「……見にきたんだろ?」

 わたしはそっと碧人の横顔を見る。

「おれが走れないところ……見にきたんだろ?」
「うん」

 碧人が深いため息をつく。

「くそっ、篠宮のやつ……なんでも夏瑚にしゃべるんだから」

 わたしはそんな碧人に笑いかける。

「そうだね、ほんとあの子はおせっかいだよ」

 バスが大きくカーブを曲がる。わたしと碧人の肩が、かすかに触れる。

「でも篠宮さんは……すごく碧人のことを心配してる」

 碧人は黙ってうつむいた。いまだってきっと、碧人がどうなったか心配しているはず。

 車内にアナウンスが流れた。誰かが押した降車ブザーの音が響く。

「碧人、ごめんね」

 わたしは前を向いてつぶやいた。

「ぜんぶ碧人に押しつけちゃって」

 碧人はなにも言わない。わたしは続ける。

「だからさ、これ以上碧人の重荷にはなりたくなくて、もう会わないつもりだったけど……それってわたしだけ逃げるような気がして……」

 碧人がゆっくりとわたしのほうを向いた。

「碧人がつらいなら、わたしが手伝うよ。あんまり頼りにならないけど……碧人の持ってる重たい荷物、わたしにも半分分けてよ」

 わたしは碧人を見て、いつもみたいに笑った。