しばらく待っていると、制服に着替えた碧人が校門からひとりで出てきた。
 碧人は青白い顔をしてうつむいている。もちろんわたしには気づいていない。

「碧人」

 声をかけたら、びくっと肩を震わせて、碧人が立ち止まった。わたしを見て、目を見開く。

「夏瑚?」

 わたしはゆっくりと碧人に近づいた。

「もう帰るの?」

 碧人は戸惑うように何度かまばたきを繰り返したあと、わたしから目をそらす。
 だってわたしたちは『もう会わない』はずだったから。

 やがて碧人が、消えそうな声でつぶやいた。

「やる気のないやつは帰れって、顧問に言われちゃって……」

 わたしは黙って碧人を見つめたあと、その手をつかんだ。

「碧人。つきあって」
「え?」
「もう一度つきあって」

 意味がわからないといった顔をしている碧人を、無理やり引っ張って歩く。

「ど、どこ行くつもりだよ?」

 わたしは振り返り、碧人に向かって笑顔をみせる。

「陸上競技場。今度こそ、行ける気がするんだ」

 碧人はあきれたように、眉をひそめた。