【碧人くんに連絡してくれた?】

 わたしは小さくため息をつき、返事を送る。

【まだ】
【もー、ちゃんと連絡して、声をかけてあげてよね! 碧人くんのこと、心配じゃないの!?】

 関わるなと言ったり、連絡しろと言ったり、ほんとうに腹が立つ。

【うるさい】

 激おこのスタンプを送ってやる。
 すると向こうも、プンプン怒っているウサギのスタンプを送り返してきて、そのあとに文字が続いた。

【明日の土曜日は午前練で部活終わりだから、碧人くんに会ってあげて】
【はぁ? なにそのウエメセ】
【いいから頼んだよ!】

 わたしは猫が「あっかんべー」と舌を出しているスタンプを送りつけ、スマホをポケットに突っ込んだ。

 もうっ、なんでわたしがあの子に命令されなきゃならないの?
 わたしだって、これでもちゃんと考えてるよ。

 むすっとしながら、鉢植えを見下ろす。緑の葉には、いつのまにか蕾がついていた。

『夏瑚にはしばらく会わない。そうする』

 最後に聞いた碧人の声。

 碧人も、わたしも、それが正解だと思った。
 碧人は夏の大会を目指して、わたしもわたしなりに、前に進んでいこうって思っていた。

 でも……

『走ることができるのはおれだけなんだから……やるよ』

 学校ではいつも明るく笑っていた碧人だけど、ほんとうはすごく寂しがり屋で、真面目で繊細なやつだから……もしかしてまわりからのプレシャーが重荷になっているのかも。
 そしてわたしも、碧人にプレッシャーばかりかけていた。

「碧人……」

 蕾のついた葉に、手のひらでそっと触れる。

 わたしだって、碧人が思いっきり走っている姿を、もう一度見たい。