「そっか。そういうわけだったのか」
「ちょっと! わたしまだ、なにも言ってないじゃん!」

 気の強いところは、美冬と違うけど。

「いや、もうわかったから。篠宮さんが碧人のこと好きだってことは」
「だからまだ言ってない!」

 さらに顔を真っ赤にする篠宮さん。おもしろい。
 あははっと笑ってやったら、篠宮さんは口をとがらせて言った。

「水原さんはどうなのよ」
「は?」
「幼なじみとか言ってるけど……ほんとにそれだけなの?」

 わたしは笑うのをやめて篠宮さんを見た。そして静かに口を開く。

「ほんとにそれだけだよ」

 碧人はわたしの親友の好きなひとだから。
 あのころも、これからも。

 篠宮さんが、顔をしかめた。わたしはそれを無視して、ストローに口をつける。

「ねぇ」

 そんなわたしに篠宮さんが言う。

「碧人くんに会ってくれるの?」

 わたしは冷たいコーヒーを、胃の中に押し込んでから答える。

「……気が向いたらね」
「はぁ? 水原さん、碧人くんがこのまま走れなくてもいいの? 夏の大会はもうすぐなんだよ! なんとかしてよ!」

 なんとかって……ほんとにこの子、人使いが荒いなぁ。
 わたしだって、碧人のことは気になるけど……

『夏瑚にはしばらく会わない。そうする』

 最後に見た、碧人の泣きそうな笑顔を思い出しながら、またストローを吸う。

 碧人のことを考えると、甘い飲み物もほろ苦くなるのは、どうしてなんだろう。